《シキ》
湿気を帯びた森のなかにある一冊の本のような
乾いた表紙、読み取りにくいタイトル、優しい言葉で綴られた難解な物語(ストーリー)
あの子がかけていた眼鏡のような
かつて見たはずの瞳をもう思い出せない、彼女が見たのは僕か彼か
努力家の太陽から逃れて、バス停にあるトタン屋根の下で君は本を読んでいる
群青に溶ける君の輪郭、幻想の中に散らばる君の言葉
ページとページの間に置いてけぼりの願望
ガラスごしに呼びかけた声
「ドン・キホーテは本を読んだが故に紳士になり、その内容を信じたが故に狂人になったんだよ」
「君は自分がかけている眼鏡の色をわかっているのか?」