《かえりたい》
春の海はほの白く、どこか乳臭い
波飛沫の中には無数の生き物の卵が跳ねて
命は濁りと呼ばれます
夏の海は戦場、打ち上がればすぐに腐り
船板の下は闇 敗者は人も魚も等しく
締まった体を食卓に打ち上がるのみ
秋の海は澄み、濁りと命は脂と化して消えていく
群れ同士が派手に捕り物劇を演じ
やわらかな肉は他の誰かを太らせます
冬の海はどこまでも静謐、清浄
新たな命を秘めながら、
気紛れに顎を開き、冥府の闇へといざなう
海の中に母がいると言った詩人は誰だったか
母の中に海があると言った詩人の名は何だったか
闇の果てには、懐かしい面影があるのだろう