《mukuta》
ねえムクタ
こっち向いて
文字だけ書かないで
先生がそんな書置きを残して病棟から消えた。
「読んでみな。飛ぶぞ」彼はチキンであって鳩やカラスやフクロウではないので最終的にどこへ着地したかはラ神のみぞ知る。
おいてけぼりにされたわたしたちはひとしきり狼狽えたり頭を抱えるふりをしたが9割がたは感情偽装であると全員が気づいていて、窓はどこまでもすこやかに開いていた。
カーテンが人違いめいて揺れる。
先生はむくつけきその心的内面とはかけはなれて「アイキャンフラーイ!」と虹の橋を渡りそうなひとではあったので、
自身なら絶対にしないであろうこともなんとなく気持ちを貫通するようで。
teenage funclubが大音量で流れるナースステーションを後にし、
わたしはムクタの病室へと向かった。
そこにはなぜか先生がメガネもあらわに存在していて、
桃色の頬をぷいっと背けた。