―― 或る日の思い出:薬屋のねぇね ――
[街はずれの家で生活し始めてまだ日が浅いころ。ばあやが倒れてしまったことがあった。高熱が出て、苦しそうで。
でもわたしにはなんにもできなかった。
だっていつも、怪我をするのも風邪をひくのも、
わたしだったから。
わたしは、ただただオロオロするばっかりで、一生懸命じぶんが風邪をひいたときのことを思い出して、
お水を飲ませてあげたり、汗を拭いてあげたりしていた。
頼れる人もいなくて、不安で、怖くて。
泣きながらばあやの傍にいたら、ばあやがわたしの手にお金を握らせた。
薬を買ってきてくださいますか?
掠れた小さな声で、そう言われた気がした。だからわたしは、コクコクと何度も頷いて、駆け出した。
この街の言葉も、まだちゃんと覚えてなかったけれど、「薬」という言葉は何とか伝えられたから。
行きかう人を捕まえては拙い言葉で訴えた。]