[視力が失われたのだと理解するのに時間はかからない。
間近にあるはずのシュテンの深緋の瞳も。
緩やかに波打つオルテンシアの金の髪も。
窓の外に在るはずの蒼い星の明かりさえ。
光の刺激に無反応になったわたしの瞳は映さない。
今まで息を引き取った人達もこんな風に、
暗闇の中で最期の時を迎えたのかもしれない。
だとしたら、寂しかっただろうな、と、思う。
…嗚呼、でもね。
一つだけ、よかったことがある。
オルテンシアやシュテン。
眠っている人達の顔を見たら、
無様に泣き出してしまいそうだった。
見えない。だからこそ、わたしは微笑むの。
ありふれた日常がまだこの場所に在った頃のように。]