《――rig》
…られた、やられた 塗り具師だ
刷毛を何本か毟った お前も気をつけろ
今時1414に留守番メッセージを残して
君は自宅玄関から十歩の門前で発見された
ジャケットの背に鮮烈な赤
顔を近づけたら警官に制止された
刷毛を一本だけ回収に成功した
揮発臭に喉を傷めながら
懇意の鑑定士に刷毛を見せに行くと
塗り具師じゃない と言われた
じゃあ奴を殺したのは誰か
さて、と鑑定士は顎を撫でながら
遣り具師かもしれないし選り具師かもしれないが
少なくとも塗り具師ではない、という
追及する質問を思いつけずに退散する
「やられた 塗り具師だ」と最後に言い残した君の
「ぬ゛」の発音が耳に残っている
遺留品を失敬した手前
警察に相談し辛くなって――