《身近な/短な命》
ええ我々の仕事においては、寿命が身近な存在でして
ファミレスのボックス席で僕の向かいに、断りもなく座ってきた黒スーツの男は唐突にそう言い、テーブルに広げた教科書やノートを一瞥すると日本史の教科書を手に取りめくった
古事記には多くの「みこと」が登場しますが、「命」と「尊」で使い分けられてましてね。神である高高那岐は命、貴人の日本武は尊
その視点に立つとですね、不吉と言われる我々死神も、天命を人に届ける寿命と思えてきません?
ページに目を落としたままそんなことをぼそぼそと言うと男は手を教科書から離して僕の手元にあった、すっかり氷の溶けたお冷を手にした。喉を鳴らして一口含むと、男は顔を上げて僕に向き直る
ただし貴方の場合は事故死で、寿命ではなく夭折ですね。
試験勉強ご苦労さまです、努力の成果を確認できず無念でした