《告知》
CT/PETにMRI、腫瘍マーカー血液検査、細胞診の検査結果を懇切丁寧に説明したのち、初老の医師は淡々とした口調を崩さず私に告げた
「胃ガンで全身転移が見られ、1年生存率は7%、末期です」
「が、が、がーん」
背後に立ってる若い看護師、ふぐぅと噴き出すのを堪えている。生涯一度は言いたい台詞、スベらず済んだと心のなかでガッツポーズ
「その反応は僕の医師キャリアの中で、貴方で3人目になります」
初老の医師は表情変えずに、過去の二人の話を始める
98歳のお茶目な女性は慕う子・孫・ひ孫が入れ代わり立ち代わり、個室に笑い声が絶えなかったと。革新的技術で世間を密かに圧巻したベンチャー企業CTOの男性博士は、財を寄附して建てた緩和病棟のラウンジで、最期のときまで後進と議論していたと
話し終わると医師は眼鏡の奥で、僅かに目を細めて微笑み
「悔いのない人生を、歩んでいらしたんですね」
笑いどころはここじゃないぞと、言葉は喉から発せられずに。代わりに頬を熱い涙が、ツゥと伝って紙上に落ちた