月狼国

299 [誰歓]詩人狼村11th[ガチ]


技師 アユミ

《告知》

CT/PETにMRI、腫瘍マーカー血液検査、細胞診の検査結果を懇切丁寧に説明したのち、初老の医師は淡々とした口調を崩さず私に告げた

「胃ガンで全身転移が見られ、1年生存率は7%、末期です」
「が、が、がーん」

背後に立ってる若い看護師、ふぐぅと噴き出すのを堪えている。生涯一度は言いたい台詞、スベらず済んだと心のなかでガッツポーズ

「その反応は僕の医師キャリアの中で、貴方で3人目になります」

初老の医師は表情変えずに、過去の二人の話を始める

98歳のお茶目な女性は慕う子・孫・ひ孫が入れ代わり立ち代わり、個室に笑い声が絶えなかったと。革新的技術で世間を密かに圧巻したベンチャー企業CTOの男性博士は、財を寄附して建てた緩和病棟ホスピスのラウンジで、最期のときまで後進と議論していたと

話し終わると医師は眼鏡の奥で、僅かに目を細めて微笑み

「悔いのない人生を、歩んでいらしたんですね」

笑いどころはここじゃないぞと、言葉は喉から発せられずに。代わりに頬を熱い涙が、ツゥと伝って紙上に落ちた

(126) 2021/03/07(Sun) 14:56:20

(0.06 CPUs)
SWBBS V2.00 Beta 8 あず/asbntby
当サイトは日本国内専用です。
海外からの操作・閲覧は保証しかねます。
管理人 by yukari
雑用 by apricot/garnet