《生きるべきか死ぬべきか》
鈴の音がクレッシェンドするのが終業の合図だ。
花粉症患者のフルヘッヘンドは切り落とすこと。
偏頭痛持ちの脳はてっぺんを見て確認。
血栓症の壊死した肺はただちに取り除くこと。
上司からの小言を作業着のポケットに突っ込むフリをして、
今日解体したメッチェンの大腿部の肉をくすねた。
大腿部はウェルダンで食べるのが一番いいのだが、
持ち出しは重罪であるためレアのまま口に運んだ。
常習犯の同僚は別件逮捕で自宅の肉を押収されていた。
石鹸を使いすぎた罪と聞いて当時は何事かと思った。
底辺であることはもはや欠点である。
今日解体したメッチェンの左手の切片は
ひびも赤切れもなく、白く細く艶があった。
労働を知らない手だった。
一日ぶりの食事をろくに咀嚼もせずに終えた。
生きているだけマシなのだと自分に言い聞かせた。