《合縁奇縁》
オイルライターの芯をスルメイカに変えてからめっぽう調子がいい。
先の仕事で取引先からは好評価をいただいたし、上司は賞与に色を付けてくれると約束した。
やはり元来繋ぐべき紐を燃やすべきではないのだ。
先日オイルライターの芯を使い切ったらしい同僚は、自分はガスライターを使ってみようかと俺に相談してきた。セブンスターを吸う奴は尽くセンスがない。
いいか、スルメイカは元来炙るためにある。だから俺はスルメイカを燃やすのだ。世界の真理を知らぬ奴は何をやってもダメだ。
鼻高々で俺は次々と取引を成立させていった。
スーツにすっかりイカのにおいが定着してしまったが、そんなことはどうでもいい。
ついに俺は小金持ちになり、意気揚々とキャバクラに向かった。それが不味かった。
イカの匂いに寄せられた女が次々と俺に連絡を寄越し、ついには夜も眠れなくなった。
マンションのドアノブに手作りの肉じゃががかけられていたのを見て、俺はオイルライターからスルメイカを引き抜いた。
先日成功させた商談は破談になったらしい。
だけど俺は後悔していない。
人との縁は元来燃やすためにあるのだ。