《王様と城壁》
やあ 旅の人。ようこそ我が国に。
驚いたかい?りっぱな城壁だろう。
そう、この高い壁が我が国をぐるりと囲んでいるんだよ。
外敵の侵入を防ぐ護りは我が国みんなの悲願だったからね。
うん。それは目眩がするような大工事だったよ。
資金はあらゆる手を尽くして集めた。国費だってありったけ使った。
国民たちも痛みを我慢して頑張ってくれたよ。
昼夜も問わず寝る間も惜しんで働いてくれた。
志半ばで倒れた人たちの遺志を継ぎながらみんなで取り掛かった。
壁ができあがれば幸せになれるからとみんなで信じて
血涙振り絞ってこの国のなにもかもを使って
そうして築いたのがこの城壁なんだよ。
…もう行ってしまうのかい 旅の人。
またいつでも来ておくれ。城壁の門は開けているから。
…ああ、別にいいんだ。守らなければならない国民も、財産も、今となってはもう何も残っていないのだから。