[―――時に、彗星工房の本来の持ち主は己では無い。
師が引退する際に、彼の工房をそっくりそのまま譲り受けたのだ。
当初は看板に描かれるのが流星ではなく、何故、彗星なのか。
弟子入りしたばかりの頃は、理解出来なかったが、
その疑問も、早熟な少年は直ぐに解いて見せた。
仄蒼く輝くコマは誰かの瞳と良く似ていて、
靡くように伸びるテイルは長い御髪のように真っ白。
決して地に落ちず、空を巡る彗星が何を示しているか、
分からないほど、己は野暮ではなかった。
存外、ロマンチストな師が、長らく誰を好いていたかなんて、
知らないのは、きっと目の前の蒼白い彗星ばかり。*]