《さかもり》
人間”後”十年 下天のうちを比ぶれば
うそぶいていた今川さんに
3ヶ月の余命宣告が出ていることは
わたしと先生だけの秘密
消毒という名目で弱めの胃薬に
少しずつアルコール濃度を上げますね
「梁田」「小平太」「一番槍」
人生は田楽刺しにされた一本の某かで
虚子なら迎えた今年が訪れない未来を
病棟の影にしんと沈めて
春めくを通り越して蒸し暑さが町中を覆った日
今川さんの左大腿の動脈層がやぶれた
OKともNOともいえない狭間で
鬨の声が上がる
バイタルサインはどんな筋を走ってもうつくしくて
わたしは他人のように熱い涙を流す