《春の泥棒》その朝は、いつもとどこか違ってた。幸せな夢から覚めた時、ベッドの中でそれを悟った。暖かな日差し、少し強い風。春が来た、春が来た。春が来たのだと、風の匂いが告げていた。その朝は、いつもとどこか違ってた。老いた貴方の優しい声が、階下から響いてこない朝。嗚呼、さよならが来たのだと。頰を滑る涙が、ツンと痛む鼻が告げていた。