《春の夜》
こんな気持ちになったのは
毎朝窓から無遠慮に侵入してくる空の青さが鬱陶しくて、
そんな光に照らされる壁の無邪気な白さも嫌になったから。
目の前の机には萎れかけた菫の鉢植えと10円玉、
そしてナースステーションからくすねた薬瓶と酒瓶。
どうせ治らぬ病なら、コイントスで運命を決めてやるのも悪くない。
放り投げた10円玉は鉢植えに当たってそのまま床に落ちる。
上を向いていたのはーー
こんな気持ちになったのは
本当は私の気持ちは初めから決まっていて、
「運命」は言い訳に使いたかっただけだったから。
10円玉をひっくり返して机に乗せ、そうして片方の瓶に口をつける。
少しだけ心が楽になって、少しだけ壁の白さが和らいだ気がした。