76 【完全RP】輪廻の果てに
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観測者 メアリー
[闇のような眠りに飲まれていく間、
身体が床に叩きつけられるような衝撃があった。
糸の切れた繰り人形のように、
意識の喪失に身体が耐え切れなくて、倒れたのかもしれない。
ごめんなさい。と、謝る声も、もう声にはならない。
最期の時までシュテンに心配はかけたくなかった。
一度に二人もの仲間を、失わせたくはなかったのに。
大好きと言ってくれた。シュテンも、オルテンシアも。
出来ることなら、二人とも救いたかった。
――…けれど、それは叶わないから。
どうかお願い。シュテンは。
シュテンだけは、生きて欲しい――…。
ねえ、神様。最後の最期のお願いの一つくらい
聞いてくれてもいいでしょう？*]
観測者 メアリー
―夢の軌跡―
ごとりと音を立てて落ちたわたしの意識の残滓は
夢とも呼べない夢を見る。
走馬灯のように過ぎていく光景は。記憶は。
全てがこの場所で過ごしたわたし自身の記録。
過ぎ行くのは、眠りに就いた一人一人との思い出。
観測者 メアリー
ある時。まだ大母星に在った頃、
何の縁かメリッサがわたしの研究室へ泊まりに来て、
案の定寝起きが悪くて起きられなかったことがあった。
当然のようにわたしは酷く怒って彼女を追い出したのだけれど。
此処へ来てからももう一度似たようなことがあって、
寝るときは自分のベッドでとしつこく言い聞かせる羽目になった。
なんて、そんな思い出。
誰よりも速く訪れた唐突な最期の瞬間。
大気になりたいと望んだあなた>>1:#3は何を考えていたの？
メリッサ。わたしにはない快活さを持った人だった。
KKの知識が豊富で、本人には言わなかったけど、尊敬していた。
旧くからの知り合いだったのに、
プライベートまで踏み込むことはなかった。
それをね、少しだけ後悔しているわ。
――一瞬、彼女の榛色の瞳が蘇って…消えた。
観測者 メアリー
次の瞬間には思い出の色は切り替わって。
わたしは誰もいない宇宙船の中に居た。 …違う。もう一人。
ハッチに腰掛けているのは――セト。
二人きりで何を話していたのか、忘れるはずもない。
彼には月へ来たその日に癇癪をぶつけてしまって、
大変萎縮させてしまったものだ。>>1:85
後日、謝りに行ったその時に、上司から左遷のような形で
第八期のメンバーに組み入れられたこと>>0:84を聞いた。
世間話程度にわたしも故郷の星のことだとか、
育った施設のことだとかを喋ったような気がする。
その時に彼がドロシーの送り主人に似ていることは、言えたっけ。
…ドロシーの存在は隠していたから、言えなかったかもしれない。
出会ってから三ヶ月して、
彼の誠実な人柄が知れてきた頃にはきっと話をしていた。
彼なら、話を聞いても拒むことはしないだろうと思ったから。
観測者 メアリー
頁が捲れるように思い出したのは、ヘクターの仏頂面。
表情もあまり変わらなければ、口を開くことも稀。
けれど、思念で冗談か本気か分からないことを言ったり>>0:54、
オーバーなリアクション>>0:190をしてみたり忙しい人だった。
…人と一線を引いて関わっているのは知っていた>>1:55。
わたしは、それでも構わないと思っていた。
自分自身が人と深く関わろうとしてこなかった。
だからこそ、わたしから彼へ関わることはほとんどなくて。
アクアテラリウム>>1:60を時偶見せてもらいに
彼の研究室へ訪れて、勝手に中身を観察して帰る。
なんて。接点はそれくらいだっただろう。
セトが息を引き取った時、
見ているのさえ憚られるほどに感情の振れ幅が見て取れた>>3:34。
"情熱家">>3:28だなんて言葉は信じていなかったけれど、
その時に彼の見方は一変して、
もしかしたら…なんて思ったものだ。
観測者 メアリー
ヘクターの記憶から連鎖するように思い出される談話室。
――その場にはセラの姿があって。
きっとこれはあの日の深夜のことなのだとわたしは懐かしく思う。
アンネを喪って拙く歌う声が聞こえる>>4:3。
その歌がこの光景は
現実に起きていることではないのだと告げていた。
"恋をしたことがある？">>4:73と聞かれて
曖昧に濁したわたしの「恋」の話。
その日に別れが来ると知っていたら、全部話せていたかしら。
彼女の話ももっと詳しく聞いてみたかった。
故郷が失われた。それだけでもショックだったでしょう。
その上、一人、一人と彼女がどれだけ手を尽くしても人が斃れる。
医療者としても、仲間としても、
彼女に降りかかる心痛は耐え難いものだったはずなのに、
最後の最後まで残る誰かのことを考えて行動していた。
観測者 メアリー
セラと同じくして息を引き取ったミーンのことを思い出す。
シュテンとオルテンシアを頼む。そう言い残した彼のことを。
彼がオルテンシアと想いを繋げたは何時のことだった？
…思い出せないほど、彼とオルテンシアは仲睦まじかった。
想い人を置いて息絶えることほどの無念もなかっただろう。
彼女のことを慮って最後の嘘を吐いた>>4:138。
その話は、シュテンから聞いた？
それとも、オルテンシアに？
どちらにしても、彼の心中は察するに余りある。
あなたの望みの通りにオルテンシアを守ることは出来なかった。
…どうか、死後の世界というものがあるのなら、
あなたとオルテンシアが巡り会えていればいい。
観測者 メアリー
ふと、アンネのことを思い出す。
どこかうっかりしている彼女。
けれど、誰よりも優しくて、誰よりも強かった。
誰かの冗談を生真面目に受け取ってみたり、
他人を可愛い>>0:274と言ってみたり、
あなたが誰よりも可愛いのに。なんて言った日には
彼女はどんな反応をしたのだっけ。
彼女の淹れるお茶は優しい味がした。そして、暖かかった。
初めて飲んだ時には惜しみなく賞賛の言葉を送ったくらい。
薬学の研究の他にも、他人の纏う空気まで和やかに
変えてしまう力は紛れもなく彼女の才能だった。
サーチェスが無くても彼女には十分素晴らしい能力があって。
彼女が眠りに就いたその直後に、基地の空気が重くなったのは
きっと気のせいではなかっただろう。
観測者 メアリー
ニケを看取った時、何となく知れた彼女の気持ち>>2:352。
…もっと前から気付いていたのに、
敢えて彼女を拒むニケを諌めもしないで、
涙ながらに立ち去る彼女>>2:350を見送った。
あなたの最期のひと時、
泣き出しそうになったのは>>3:179一つの理由だけじゃなかった。
わたしはあなたにお礼を言ってもらえる>>3:161ような
綺麗な人間じゃなかったの。
太陽のように暖かくて眩しい人。
あなたと過ごした僅かなひと時は楽しい時間だった。
――同時に、わたしには辛い時間でもあった。
ごめんなさいと謝りたいと希う気持ちも、…唯の自己満足。
――一瞬、彼女の手の暖かさが肌に触れた、気がしたけれど。
その感覚は直ぐに消えてしまった。
観測者 メアリー
…代わりに現れたのは、焦がれていた宝石の色。
蒼と翠が複雑に混じり合う翡翠の色。
わたしの瞳を綺麗だと、そう言ったニケの瞳。
本当は。…本当は、訪れた最期の瞬間に、
逝かないでと泣いて縋ってしまいたかった。
明日を信じて生きろと言った癖>>1:291に。
誰よりも置いていかれることを恐れていた癖に。
なかなか死にたくない>>2:347とは言ってくれなかった。
疵痕を君には見せたくないとアンネを頑なに拒む様を見たら、
彼が考えていることなんて>>2:334分からないはずがなくて。
彼が自覚しているか、意識しているのかも分からないし、
どう思っているのかもわたしには知れなかった。
けれど、アンネが彼にとって
大事な存在>>2:354であることだけは汲み取れて、しまった。
観測者 メアリー
好きであなたの元へ来たの。
口を吐いた言葉は無かったことにはならない。
大好き。と口にした言葉も消えない。
だからわたしは、誰にも気付かれないうちに彼への思いを、
想いを、「大切な友達のため」と置き換えて、
擦り替えて、生きて欲しい>>2:378と嘯いた。
大好きで大嫌いなニケ。
よりにもよって忘れて欲しいなんて酷いことをセラに託けて、
あなたがわたしの間に合わないうちに息を引き取っていたら、
わたしはあなたを許さなかった。
嗚呼、やっぱりセラにはこんな話、出来ない。
初めての恋が始まったのは唐突で、終わるのも唐突だった。
こんな感情はわたしとドロシーだけが知っていればいい。
観測者 メアリー
全てが消えたあと
胸の中には光が満ちているようだった。
大切な思い出と、一人一人の顔が過ぎて、消えて。
わたしは今、考える。
悲しいことも、辛いこともあった。
それでも、人生は美しい。尊いものだと。
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