家庭科室で
「────……ねえ、せんせ」
鍋やまな板を片付けている背中に声をかければ、「なあに?」と軽やかな声こそ返ってくるけど、表情は見せてくれない。続きを促す事もない。
────ズルいよなあー……。
自分だって面と向かって何を告げるわけでもないのに、そんな自分は盛大に棚上げして、小さく密かに溜息を吐く。
豚より牛より鶏が好きだと言ったら、"試食"の品の鶏頻度が増した。
にんにくや唐辛子が好物だと言ったら、以下同文。
足繁く家庭科室に通う俺を追い返すでもなく、時にはこうした試食があったり、単に数分の雑談で終わったり。
大人な先生は、俺の好意に気付いてない筈ないんだ。
こうして笑顔で部屋には入れてくれんのに、その先は踏み込むなとばかり、透明な膜みたいのが彼女を覆ってるようで。